アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
山辺部長は、他社にバイオコーポレーションの情報を流し報酬を得るのが目的だと思われてきた。しかし今回は今までとは少し違うと愁が首を捻る。
「合同会社の件が山辺部長の思惑通りに進んだとして、山辺部長になんの得があるんだろうなぁ」
「それは、懇意にしている同業他社に高額な報酬で頼まれたとか? バイオコーポレーションが医薬品業界への進出するのを快く思わない会社もあるでしょうし……」
「もちろんそういう考え方もできる。だがな、今回は金より感情って感じがするんだ」
金より……感情?
どういうことなのか訊ねてみたが、愁は押し黙りその言葉の意味を教えてくれなかった。そして珍しく日本酒をガブ飲みしてお風呂にも入らずソファーで寝てしまった。
いくら起こしても目を覚まさないから仕方なく愁に毛布を掛け、暫くその綺麗な寝顔を眺めていたのだが、出るのはため息ばかり。
山辺部長のことも、根本課長のことも、肝心なところで口を噤んでしまう。そんな愁の態度に寂しさを感じていた。
「愁の一番の味方は私なのに……」
眠っている愁に向かって文句を言うと、今までどんなに声を掛けても固く閉じていた瞼が少しだけ開く。
「んっ? なんか言ったか?」
「うぅん、何も……」
聞こえなくていいことには反応するんだ……と心の中で嫌味を言いながらプイと横を向いたのだけれど、愁が柔らかい笑みを浮かべ、寝ころんだまま両手を広げる。
「おいで……紬」
「えっ……」
さっきまで不信感でいっぱいだったのに、優しく微笑み掛けられるとダメだ。全てを忘れ吸い込まれるようにその腕の中に飛び込んで行く。