アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】

すると愁は少し沈んだ声で『そうだな……』と呟き、昔から大嶋専務は自分には冷たかったとため息を漏らす。


子供の頃の愁は、なんでも卒なくこなす二歳年上の大嶋専務に憧れていたそうだ。だから会うと必ず話し掛けていたのだが、なぜか専務は素っ気なかった。


愁は、自分の何が気に入らないのか見当もつかないと言うけれど、私は密かに早紀さんが原因なのではと考えていた。


絶対そうだ。シスコンの大嶋専務は、溺愛する妹の早紀さんが愁を慕っていることが許せなかったんだ。つまり、愁に嫉妬していた……でも今は、大嶋専務の兄妹愛を語っている暇はない。


もうひとつの疑問。なぜ早紀さんに愁と付き合っていることを大嶋専務に言うなと言ったのか、それを聞かないと……


『紬のことを和志君に秘密にしている理由か……まぁ色々あるが、一番の理由は、紬が俺の彼女だと分かれば、お前に対してもいい印象を持たないと思ったからだ。そうなったら、弟の翔馬のイメージも悪くなるだろ?』

「あっ……」


そうか。翔馬が愁と付き合っている私の弟だと分かれば、大嶋専務に早紀さんとの交際を反対されるかもしれない。愁はそれを心配していたんだ。


「翔馬の為に気を使ってくれたんだね」

『そんなとこだ。それに、早紀も翔馬と付き合うようになって前よりよく笑うようになったし、あのふたりを別れさせたくないからな』


ふたりのことを思う愁の優しさに胸が熱くなる。


そう、彼は優しい人。だからよけいあのことがしこりになっていたんだ。


――どうして私のことは心配してくれないの?

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