アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】

「とても楽しい食事会だったよ。また近いうちに四人で食事がしたいね」

「あ、はい。是非……」


なんて笑顔で返したが、心の中では、あんな緊張する食事会はもう勘弁。と思っていた。と、そこへ副社長室から出て来た営業本部長が近付いてくる。


超絶不機嫌な顔をした営業本部長は、午前中に行われた営業会議の件で話しがあると鼻息荒く持っていた資料を大嶋専務に差し出した。


どうやら本部長は会議の内容に納得していないようで、大嶋専務に話しを聞いて欲しいと訴えている。


「分かった。私の部屋で聞こう」


大嶋専務と営業本部が専務室に向かって歩き出すと、その姿を目で追っていた元木さんがため息を付く。


「大嶋専務って一見、怖そうに見えるけど、部下思いの優しい人なんですよ。今は自分のことでいっぱいいっぱいなはずなのに、ああやって親身になって部下の意見を聞いてる……ホントいい人だな」

「えっ? 大嶋専務に何かあったの?」

「はい……八神常務が本社に来るまでは、本社の社員全員、大嶋専務が次の社長になると思っていたんです。多分、大嶋専務本人もそう思っていたんじゃないかな?」


元木さんはそう言うと栗山さんの方を向き「そうですよね?」と同意を求める。


「あ、うん、そうだね。私もそう思ってた」


栗山さんも憐れむような目で大嶋専務の背中を見つめため息を漏らす。


もしそれが本当なら、絶対ショックだよね。同じ社長の身内で、しかも自分が嫌っている年下の愁に次期社長の座を奪われたとなれば、心中穏ではないだろう。


大嶋専務が愁を敵視していたのは、そのことも関係していたのかも。早紀さんのことだけが原因じゃなかったのかもしれない。

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