アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
社食でサバの味噌煮定食を食べている間も、ずっとそのことを考えていた。すると同じく無言でチキンフライを食べていた栗山さんが遠慮気味に口を開く。
「ねぇ、さっき大嶋専務と話していた食事会って、なんの食事会だったの?」
「あっ、あれはね、私の弟が大嶋専務の妹さんと付き合ってて……顔合わせの食事会だったの」
栗山さんは大嶋専務の秘書をしてた時、何度か早紀さんに会ったことがあるそうで「あの早紀ちゃんと新田さんの弟が?」と驚いていた。
「私もそのことを知った時は腰が抜けそうだったよ。世間って狭いね」
「なんだ~そういうことだったんだ。大嶋専務と食事したっていうから、知らないうちに告白してデートしていたんだと思ってビックリしちゃった」
あぁ、そうか。私は大嶋専務のことが好きってことになっていたんだ。
栗山さんを騙していることに後ろめたさを感じながら首を振り、その後、例の彼とはどうなっているのかと話しを振ると、栗山さんは私を真っすぐ見据え「順調だよ」って両方の口角を上げる。
しかし栗山さんが嬉しそうにすればするほど、不安になってしまう。
「あの、ひとつだけ聞いていい? 彼の夢が叶ったら、栗山さんの願いも叶うのかな?」
「……それ、彼と付き合えるのかってこと?」
私の聞き方が悪かったのか、栗山さんの表情が一瞬にして硬くなる。慌てて口を閉じると栗山さんが箸を置き、眼光鋭くこちらを見た。
「彼のことを誰よりも愛しているのは私。それは彼も分かっているはず。だから大丈夫よ」
「……そ、そう、ならいいけど」