アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
元木さんが盗み聞き? と驚いたが、彼女の行為を責めるつもりはさらさらない。もちろんイケナイことだということは分かっているけど、私がその場に居ても、きっと同じことをしていたと思うから。
「で、どんな話しをしていたの?」
私が急かすと元木さんは再び用心深く辺りを見渡し、専務室で三人が何を話したのか、会話の内容を教えてくれたのだけれど……それは私にとって衝撃の内容だった。
「えっ……八神常務が……結婚?」
「ドア越しだったので、全ての会話が聞こえたワケじゃないんですが、そのワードは確かに聞こえました」
途切れ途切れに聞こえてきた会話を繋ぎ合わせると、結婚式場選びをしていたようだったと……
元木さんは間違いないと自信満々に胸を張るが、私はどうしても信じられなかった。
愁が結婚だなんて……そんなの嘘だ……
「本当に八神常務の結婚式って言ったの?」
「間違いないですよ。社長の奥様が、アメリカの八神常務に結婚式のことで何度も電話をしたって言ってましたから。けど、ずっと留守電で八神常務とは話せてない……とか、そんな感じの話しをしていました」
「なっ、本人を無視して式場選びだなんてあり得ないでしょ?」
興奮して声を荒らげると元木さんが驚いたように息を呑み、一歩後ずさる。
「でも、本当にそう言ってたんです……」
怯えたような目をする元木さんを見て、落ち着かなくてはと思ったが、激しい動揺が心を搔き乱し理性では抑え切れない。
「だったら相手は? 八神常務の結婚相手は誰なの?」
しかし元木さんは、そこまでは分からないと肩を窄める。
「相手の名前は聞こえませんでしたから……」