アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
一番大事なところは分からずじまい。最悪な展開に悶々としながら元木さんと駅の改札で別れ、帰宅ラッシュでごった返すホームに立つ。
ふと見上げた空は、月はおろかひとつの星もないどんよりとした曇り空。それはまるで、私と愁の未来を暗示しているかのような漆黒の闇だった。
希望の光の欠片も見えず、思考が悪い方へと傾きかけた時、大嶋専務の言葉を思い出しハッとする。
食事会の時に大嶋専務が"そのうち分かる"って言ったのは、このことだったのでは……愁が結婚すれば、もう私にしつこくすることはない。そう言いたかったの?
電車が到着してドアが開いてもショックで体が硬直して乗り込むことができず、電車を三本見送り、ようやくマンションに帰って来た。
でも、不確かな情報でくよくよ悩んでいても仕方ない。やっぱり本人に直接聞くしかないか……
意を決してスマホを手に取るも、怖くてなかなか電話を掛けることができなかった。すると、手の中のスマホが鳴り出す。
えっ? 誰?
ディスプレイに表示された見たこともない電話番号に怪しさを感じ、無視しようとしたのだけれど、着信音はなかなか鳴り止まない。根負けして通話ボタンをタップすると若い女性の声が聞こえてきた。
『あ、お姉さん? 私、早紀です』
「えっ、早紀さん?」
どうやら私の携帯番号を翔馬に聞き、掛けてきたようだ。
『実は、お姉さんにお願いがあって……』