アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
もしかして……愁?
そう思い慌ててスマホを拾い上げたのだけれど、それは唯からの電話だった。
唯と話すのは正月に会って以来。その後の愁との関係を聞かれると、弱っていた心の悲鳴が涙となって溢れ出す。
真実を誰にも言えないというストレスが爆発し、ただひとり、本音を言える唯に燻っていた不満と疑問をぶちまける。
すると唯がまず食い付いたのは、専務室での三人の会話だった。
『まぁね、八神常務は社長の養子になったんだから奥さんにとっても息子だし、いい歳をした子供がいつまでも独身ってのも困るって思ったんじゃない?
それなら、会社の利益になるようなどっかの金持ちのお嬢様とか、縁故になれば得をする政治家の身内とかと結婚させたいって思っても不思議じゃないでしょ?』
「う、うん……」
確かに、私と愁が付き合っていることは、私の家族と唯、そして早紀さんしか知らない。私の存在を知らない奥さんが焦って結婚話しを進めているのかもしれないな。
そう納得した時、唯が突然大声を上げる。
『ちょっと待って! 私、凄いこと思い付いちゃった!』
「えっ……何?」
『これには裏があったんだよ。名付けて"奥さん陰謀説"!』
その穏やかではないネーミングにギョッとして、どういう意味か訊ねると、山辺部長の件も奥さんが裏で糸を引いているんじゃないか……なんてとんでもないことを言い出した。
唯の推理はこうだ――