アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
奥さんは元々、大嶋専務をバイオコーポレーションの社長にしたいと思っていた。しかし社長が愁を養子にすると決めてしまったので思惑が外れてしまった。
「それは栗山さんや、他の秘書課の人も言ってた。愁が本社に戻ってくるまでは、大嶋専務が社長になると思ってたって……大嶋専務も社長の身内だからね」
『そう、ふたりとも社長の身内。だけど、八神常務と大嶋専務とでは、決定的な違いがあるでしょ?』
「……あっ! それってまさか……」
『分かった? 奥さんから見れば、大嶋専務は血の繋がった甥っ子。でも、八神常務は社長の血筋だから血の繋がりはない。そこが問題なのよ』
唯が言わんとしていることは理解できる。奥さんも人間だ。愁より、自分と血の繋がりがある大嶋専務の方が可愛いと思っていたとしても不思議じゃない。
『そこで奥さんは、同じく血縁関係にある姪っ子の根本課長に相談したのよ』
「えっ、根本課長に?」
『うん、大嶋専務を社長にするにはどうすればいいか……何かいい方法はないかってね』
根本課長も奥さんの頼みとあれば、無下に断ることはできない。協力するしかなかった。そして根本課長が目を付けたのが、会社を悩ませていた情報漏洩事件。それを利用しようとしたというのが、唯が考えたストーリーだ。
『その頃には、会社の上層部は情報漏洩の犯人が山辺部長だって把握していたんでしょ? だったら秘書課の課長が知っていてもおかしくないじゃない。根本課長は、会社に恨みを持っている山辺部長なら乗ってくる。そう思ったのよ』
「ああ……なるほど。そういうことなら、給湯室でのあの一件も説明がつく」