アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】

研究所に居た時から愁と山辺部長は意見が対立して仲が悪かった。そんな愁が社長になれば、益々自分の立場が悪くなり、本社に戻ることも難しくなる。そう考えたとしたら……


『後は山辺部長が裏から手をまわして合同会社の設立を阻止すれば、やっぱり研究者上がりの素人には会社経営は無理だってことになるじゃない』

「……愁の信頼はガタ落ちだね」

『ガタ落ちどころか奈落の底だよ。そうなったら、奥さんの希望通り大嶋専務が社長になる……』

「あ……」


そう言えば、愁は昔から奥さんが苦手だって言ってたもんのな……きっと奥さんも愁が好きじゃなかったんだ。でも、その仮説が当たっていたとして、どうして愁を結婚させようとしたんだろう。


その疑問に唯は『保険だよ』と答える。万が一、山辺部長が失敗して愁を失脚させることができなかった時の為に、自分達の味方になる都合のいい女性を愁の妻にして次の機会を待つ。外堀を埋めていく作戦なんだと。


「えぇ~それはどうかなぁ……戦国時代じゃないんだからさぁ」


さすがにその考えはちょっと無理があると思ったが、唯は、トップの座を巡って骨肉の戦いをするのは、今も昔も変わらないと語気を強める。


「でも、唯ったら、凄い想像力だね」

『あ、うん、最近は恋愛小説から企業サスペンスにシフトしてるの。そういう陰謀はよくあることだよ』


いやいや、よくあることじゃないと思うけど……


その後も散々、唯の推理を聞かされ、電話を切った時には九時をまわっていた。愁に電話をして結婚のことを聞こうと思ったけど、この時間じゃ仕事をしているだろうし、一応、話しがあるとメッセージだけは送っておいた。

< 258 / 307 >

この作品をシェア

pagetop