アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
早紀さんも「お姉さん、すっごく似合ってる」と興奮気味に私の周りをグルグル回り、スマホで写真を撮ってくれていた。
しかし残念ながら、このドレスを着る予定は全くない。一生懸命アドバイスをしてくれた瀬戸さんに申し訳なくて早々にドレスを脱いで会場を後にする。
帰り際、さっきのことが気になり、早紀さんに「私、図々しかったかな?」と聞くと、なかなかシビアな返事が返ってきた。
「向こうも仕事なんですから気にすることないですよ」
「そんなものかな……」
「そんなものですよ。それより、瀬戸さんが発表会に来てくれたお礼だって、お姉さんにこれを……」
手渡された淡いピンクの封筒に入っていたのは、アルビオン・ガーデンホテル直営のエステサロンで使える優待券。なんと、全身&フェイスで一回、二万円相当のものが五枚も……
ドレスの契約もしていないのに、十万円分のエステ券を貰うワケにはいかない。無理やり早紀さんの手に封筒を握らせ、受け取れないと首を振る。が、早紀さんは「私は若いし、お肌ピチピチだから必要ありません」と押し返してきた。
それって結構嫌味だよね……
「あっ、それと、その優待券には有効期限がありますから、それまでに使い切ってくださいね」
見れば、期限は十日後になっている。つまり、二日に一回はエステに通わないと全て使い切ることはできないってことだ。
そんなの無理! と思ったけど、せっかくの好意を無にするのも悪いし……
ってことで、私は仕事が終わると一日おきにアルビオン・ガーデンホテルのエステサロンに通い施術を受けた。お陰でお肌はキメが整ってツルツル。十代の頃より調子がいいかもしれない。けれど、お肌は絶好調でも気持ちは絶不調だった。