アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
あれから何度も愁に電話をしたが、ずっと留守電になっていて繋がらない。メッセージを残しても全然連絡をくれなかった。そうなると、もう不安しかない。
奥さんが勧める結婚を断り切れなかったのでは? それを私に言い出せなくて電話できないのでは? と悪いことばかり考えてしまう。
そんな時、また早紀さんから電話が掛かってきた。
ウエディングドレスの新作発表会以来、早紀さんは頻繁に電話を掛けてくるようになっていたんだ。
青山の高級サロンの割引券があるからカットしに行こうとか、有名なネイリストが無料で施術してくれるイベントがあるから一緒に行こうとか、やたら私を誘ってくる。
どうしてこんなに懐くのか不思議に思い翔馬に聞いてみると、早紀さんは姉妹が欲しかったって言っていたから、姉ができたみたいで嬉しいのだろうと。そして翔馬はこうも言っていた。
『俺、姉貴と母さん見て育ったから、早紀ちゃんが今のお母さんと一緒に出掛けたことがないって聞いた時、凄く切なくなったんだ。だから姉貴が協力してくると嬉しいんだけど』
翔馬は早紀さんに、"普通の家族"がどんなものか教えてあげたいと思っているようだった。
その気持ちが分かったから、早紀さんからピアスを買いに行くので一緒に行って選んで欲しいと頼まれた時も快く引き受けた。
で、ピアスを探してデパートのジュエリーコーナーをまわっていたんだけど、なぜか早紀さんはピアスそっちのけで高額な指輪ばかり眺めている。
「ねぇねぇ、お姉さんはどれがいい?」
「指輪なんて見てどうするの? ピアスはあっちのコーナーだよ」
「うーん……でも、やっぱり指輪がいいな」