アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
【上記の証言は、山辺氏の長女から直接聴取したものである】
全てを読み終え顔を上げると、愁がコクリと頷き「そういうことだ……」と呟く。
「おそらく、栗山君が言っていることが事実だろう。娘を助けてくれた栗山君の頼みを山辺部長が断るはずがない。なっ、そうだろ? 山辺部長」
報告書が私の手から山辺部長に渡り、それに目を通した山辺部長が長い息を吐いて項垂れる。もう反論しても無駄だと思ったのだろう。観念したように話し出した。
――山辺部長は、自分を地方の研究所に飛ばしたバイオコーポレーションを恨み、仕返しのつもりで自分が知り得た情報を同業他社に流していた。
そんな時、栗山さんから大嶋専務のことで相談を受け、自分の娘を救ってくれた栗山さんをなんとしても助けたいと思うようになる。すると、最高のタイミングで私から愁にセクハラを受けていると電話が掛かってきた。
これを利用しない手はない。山辺部長は秘書課の栗山さんから本社の情報を聞き出し、作戦を練った。
大嶋専務の社長昇進を阻む愁を失脚させ、栗山さんの望みを叶える。山辺部長の頭には、もうそれしかなかった――
あ、だから山辺部長は、個人的に愁に恨みはないって言ったのか。でも、愁は内通者が栗山さんだってこと、どうやって知ったんだろう。そしてそれを知ったのはいつ? 少なくても渡米する前は知らなかったと思うんだけど……
愁はそのきっかけを「ボイスレコーダーだ」と言った。
「お前、山辺部長と商業ビルで会った時、会話を録音したろ? その時、余計なモノまで録音していたのを覚えているか?」
はて? 余計なモノってなんだったっけ?