アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
「どうして私を避けたんですか?」
「お前は栗山君と同期で仲がいい。もしお前がこの事実を知れば、冷静ではいられないだろ?」
愁の言っていることは理解できる。でも、私だけが何も知らされず、置いてけぼりにされたことが寂しかった。
それに、情報漏洩の全貌が明らかになったのは良かったけど、めっちゃ後味が悪い結末だ。栗山さんはもう、会社には居られないだろう……
大嶋専務の喜ぶ顔を見たかっただけなのにね。どうしてこんなことになっちゃったんだろう。
涙を拭う栗山さんに近付きソッと手を取ると、意外にも涙に濡れた瞳を細めフワリと微笑む。
「新田さん、専務のこと黙っててごめんね。それと、八神常務の情報が知りたくて新田さんを巻き込んでしまって……本当にごめんなさい」
「あ……」
それは違う。私だって栗山さんに黙っていたことは沢山ある。
罪悪感から私も全て話そうとしたのだけれど、私より先に話し出したのは、愁だった。
「栗山君、今更だが、君に言っておきたいことがある。栗山君は俺がバイオコーポレーションの社長になりたいから社長の養子になったと思っているようだが、それは違う」
「えっ……」
「もちろん養子になる時、それが条件だと言われた。だが、俺は合同会社に専念すると決めたんだ。だから帰国する前にキッパリ断ったよ」
栗山さんは信じられないって顔をして大きく首を振る。そして私にとってもそれは驚きだった。
てっきり愁が社長になるものだとばかり……
「大嶋専務が社長になるということは、既に取締役会で決定している。栗山君がこんなことをしなくても、君の夢は叶っていたんだよ」
「うそ……」