アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】

本音を言えば、愁の結婚発表なんて聞きたくもない。でも、ここまできたら、聞いてスッキリしたいという気持ちの方が大きかった。


しかし前に立っている根本課長はすぐには教えてはくれず、真っすぐ前を向いたまま大きなため息を付く。


「新田さんって思っていた以上に無神経な人ね」

「えっ、私が無神経……?」

「どうしてわざわざ私に聞くの?」

「えっ、あぁ……す、すみません」


怒鳴られたからつい謝ってしまったけれど、根本課長が怒った理由が全く分からない。あの質問の中にいったいどんな地雷が隠れていたんだろう?


せっかく腹をくくって聞いたのに、内容は聞けずじまい。


そうこうしているとエレベーターが最上階に到着し、"飛翔の間"の前まで来たのだが、根本課長は中には入らず、ドアの前を素通りして行く。それに私達以外、秘書課の社員の姿はどこにもない。


疑問に思いながらも黙って根本課長について行くと"控室"というプレートが付いた部屋の前で足を止めた。


あぁ、なるほど。CEO達の控室か。


根本課長が控室のドアを開けたので、課長の肩越しに室内を覗き込むと……


「な、なんですか? この部屋は?」

「見れば分かるでしょ。花嫁の控室よ」

「花……嫁?」


そう、ここはどう見ても花嫁の控室だ。大きな鏡の前には純白のウェディングドレスと長いベールが用意されていて、ロココ調のキャビネットの上には白とピンクの薔薇を組み合わせたドーム型のウエディングブーケが確認できる。


根本課長が控室の中に居たホテルのスタッフと思われる中年女性ふたりに挨拶をして何やら話しをしていたが、私はその会話が全く耳に入らないくらい動揺していた。

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