アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】

「ええっ! 瀬戸さんにもそんな過去が……?」


でも、一度しか会ったことがない瀬戸さんが、どうして私の恋愛事情知っているんだろうって不思議に思っていたら、スタッフの女性が根本課長に「そろそろ宜しいですか?」と声を掛けた。


根本課長が頷くと女性スタッフが私に前開きのロングブラウスを手渡し、これに着替えて欲しいと言う。


「なぜですか? どうして私が着替えなきゃいけいの?」


納得できずロングブラウスを押し返すと、次の瞬間、全員に押さえ付けられて、あれよあれよという間に着替えさせられてしまった。そして有無を言わさず大きな鏡の前に座られメイクが始まる。


「な、何するんですかっ!」


抵抗して叫ぶが、前後左右から何本もの腕に体を掴まれ身動きひとつできない。為す術なくメイクが終わると、鏡越しにもうひとりのスタッフの人が持つウェディングドレスが視界に入った。


「あっ、そのドレスは……」


そう言ったっきり言葉を失い純白のドレスを凝視する。


――オーガンジーレースを贅沢に使ったビスチェタイプのAラインドレス……


これって、瀬戸さんの新作のウエディングドレス発表会で私が試着したドレスじゃない。どうしてあの時のドレスがここに?


その理由が知りたくて私の肩を押さえている瀬戸さんを見上げたのだが、彼女からは、なんとも的外れな答えが返ってくる。


「大丈夫。マリッジブルーは誰にでもあることよ」


はぁ? マリッジブルー?


瀬戸さんの言葉が更に私の頭を混乱させ、ワケが分からず放心状態。そして気付いた時には、そのドレスを身に纏い姿見の前に立っていた。

< 294 / 307 >

この作品をシェア

pagetop