アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
どうして私、ウェディングドレスを着てるんだろう……
すると、ようやく私の様子がおかしいことに気付いた三人が顔を寄せヒソヒソ話しを始める。そして根本課長に背中を押された早紀さんが遠慮気味に聞いてきた。
「もしかして……お姉さん、何も知らないの?」
「何もって?」
「今から結婚式挙げるの、お姉さんですよ」
「……私が結婚式を……挙げる? え、えぇっ! ちょっと待って! 私、誰と結婚するの?」
その言葉に全員が絶句したが、すぐに顔を見合わせ大爆笑。で、一頻り笑うと根本課長が呆れたようにため息を付く。
「結婚する相手が分からない花嫁なんて聞いたこともないわ。新田さんの相手はひとりしか居ないでしょ?」
もちろん頭に浮かんだのはひとりだけだったけれど、その名前を口にすることはできない。
だって、私と愁はもう……
しかし根本課長は全く躊躇することなく、実にアッサリ「八神愁以外、居ないでしょ?」って言ったんだ……
うそ……
「八神常務から、新田さんには今日のことは電話でちゃんと説明してあるから宜しく頼むって言われたのよ。なのに知らないってどういうこと?」
いやいや、説明なんてこれっぽっちも受けてない。だから、そんなはずはないと首を振ったのだが、早紀さんが愁から教えてもらったという話しの内容を聞いて、やっと私がここに居る理由が分かった。
――私が山辺部長の企みを知って愁に電話をした時、話しの最後に愁が『日本に帰ってから言うつもりだったんだが……』と言ったあの言葉。私は別れ話しだと思い耐えられずスマホを耳から離してしまった。