アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
しかしそんなネガティブな噂は一瞬にして消え、今では女子社員の間でこっそり行われている"彼氏にしたい男"ランキングで、不動の人気ナンバーワン。甘い恋愛小説命の唯も並木主任に夢中だ。
「百八十センチを超える高身長と端正な顔立ち。あの野性的かつクールな瞳で見つめられたら、大抵の女性はイチコロよね~」
「全ての女がイチコロってワケじゃないわよ」
勝手に決めつけないで欲しい。私みたいな女だって居るんだ。私は並木主任のような自信満々の俺様タイプは好きじゃない。
だから出来れば関わりたくない。そう思っていたのに、彼を担当していた検査事務の山本先輩が産休に入り、私が後任として山本先輩の仕事を引き継ぐことになってしまったんだ。
「まぁね、男に免疫のない紬(つむぎ)には、あの色気は刺激が強過ぎるかもね。それに、ミスして叱られちゃったし……。でも、なんでも完璧にこなす紬があんなミスするなんて珍しいよね」
そう、私は午前中の成分分析の入力で有り得ないミスをしてしまい、並木主任にこっぴどく叱られてしまったんだ。だから苦手意識によけい拍車が掛かってしまった。
もちろん、あんな凡ミスをした私が悪いんだけど……
「そんなこともあるわよ」なんて私の憂鬱を豪快に笑い飛ばした唯だったが、急に怪しい笑みを浮かべ、私の後ろを指差す。
「ほら、紬、見て。噂をすればなんとやら……並木主任だよ」
「えっ……」
振り返ると社食に入って来る並木主任の姿が視界に入り、拒否反応で顔が強張る。が、唯はうっとりした表情で彼に見惚れ熱っぽい息を吐き出した。