アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
――翌日、土曜日。
昨夜の疲れもあり、爆睡していたようで目を覚ましたのはお昼過ぎ。目覚ましが鳴ったはずなのに、全然気付かなかった。
今日が休みで本当に良かった。平日なら完全に遅刻だ……
安堵の息を吐き、起き上がろうとしたのだけれど、全身筋肉痛で体が動かず、ベッドから出るのにかなりの時間を要した。
「うぐぐ……痛ったーい……」
へっぴり腰でどうにかこうにか階段を下り、一階の居間を覗くと弟の翔馬(しょうま)がソファーに座ってスマホをいじっていた。
「受験生がこんな時間に勉強もしないでスマホゲーム? 余裕だね」
翔馬は高校三年生。受験生にとって十二月の今は一番大事な時期。なのに本人は全くやる気がない。
「昼過ぎまで寝てるグータラ女に言われたくないね。てか、俺、大学には行かねぇし」
「なっ、まだそんなこと言ってるの? 大学は絶対行かなきゃダメ! ほら、部屋行って勉強する!」
後ろにまわって寝ぐせが付いた翔馬の頭に鉄拳をくらわし、大きな体を持ち上げようとしたが、如何せん筋肉痛で力が入らず、反対に私の方がソファーに倒れ込んでしまった。
激痛に耐えながら顔を上げると、なぜか翔馬が目玉をひん剥いて私を凝視している。そして動揺したように視線を漂わせたと思ったら、勢いよく立ち上がった。
「姉貴……お前……」
「な、何よ?」
「そういうことか……」
「そういうことって、どういうことよ?」
意味不明な会話の後、翔馬は不気味な笑いを残し居間を出て行った。
「なんだ? アイツ……」