アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】

「いつ見てもいい男だねぇ~」


唯のその言葉を否定するつもりはない。確かに見た目は悪くないからだ。歩く度にフワリと揺れる柔らかそうなダークブラウンの髪。その髪から覗く妖艶な切れ長の瞳は大人の色気を感じる。


「並木主任ってね、工場のラインで働いてる六十代のパートのおばさんが髪切ったのもすぐに気付いて『よく似合ってる』って声掛けたらしいよ。そういうちょっとした気遣いができる男っていいよね~」


唯がトロンとした目でそんなことを言うから、思わず鼻で笑ってしまった。


「そうかな? 私がそのパートさんだったら、三十歳も年下の男にそんなこと言われたら、この若造、何いってんだ……ってなると思うけど」


唯はやれやれって感じで呆れていたが、私は並木主任の女心を熟知しているようなワザとらしい言動が、どうしても受け入れられない。


再び振り返り、並木主任がトレーに野菜サラダを乗せている様子を苦々しく眺めていると、不意に顔を上げた彼とガッツリ目が合ってしまった。


げっ! ヤバ……


慌てて目を逸らし前を向く。が、暫くすると革靴の足音が近付いてきて私の後ろでピタリと止まる。目の前の唯の嬉しそうな顔を見れば、その足音の主が誰か確かめる必要もない。


断わりもなく私の横にドカリと座ったのは、予想通り、並木主任だった。


空いている席はいっぱいあるのに、どうして私の隣りなのよ?

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