アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
周りの女子社員が羨ましそうにこちらを注目しているが、私には嫌がらせとしか思えない。だからすかさず立ち上がろうとしたのだけれど、並木主任に腕を引っ張られ、座っていた椅子に引き戻される。
「なんだ? 挑発的な目で睨んでおいて逃げるのか?」
「なっ、逃げるだなんて……人聞きの悪いこと言わないでください」
「今朝のことで俺を恨むのはお門違いだぞ。ミスしたお前が悪い」
「そ、そんなの分かってます。私は食事が終わったから仕事に戻ろうとしただけです」
強気で捲し立てるも、心臓はバクバク。それでも必死で平静を装っていると、並木主任が私の食べ終えた皿を見て不思議そうに首を傾げる。
「なぁ、お前が食ったの、チンジャオロースだろ?」
「そうですけど……それが何か?」
「チンジャオロースをチョイスしておいてピーマンを全残しって……有り得ないだろ?」
「そ、それは……」
私が口籠ると唯がここぞとばかりに前屈みになり、余計なことを言ってくれる。
「それはですね~、紬はチンジャオロースに入っている肉が大好きなんです。でも、ピーマンは大の苦手。いつも私が残したピーマンを食べてあげるんですが、今日はもうお腹いっぱいで……」
唯がまだ話している途中なのに、並木主任は私の方に視線を向け、いきなり顎を掴んできた。
えっ? ど、どういうこと?
一瞬、何が起こったのか分からず、抵抗するのも忘れ固まっていると、皿の上でクタクタになっている大量のピーマンを箸でごっそりすくい上げ「あーんしろ」って言うから、恐怖で鳥肌が立つ。