アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
そして小鹿のように無抵抗で震えている私の口を容赦なくこじ開け、無理やりピーマンをねじ込んできたんだ。
「うげっ……」
それは正しく悪夢――これからの長い人生、何があっても決して口にはしないと固く心に決めていたピーマンが、あろうことか、今、口内に大量投入されている。
それだけでも気が変になり、マジで吐きそうだったのに、並木主任は大きな手で私の口を覆いリバースを阻止してくる。
「噛んで飲み込め!」
その一言で完全に涙腺が崩壊してしまい、涙で潤んだ目を震わせ無理だと訴えてみたが、それも無駄だっようで……
「こんなもったいない食い方は気に入らねぇな。飲み込むまでこの手は放さないぞ」
結局、私は涙をポロポロ零しながら、死ぬ思いでピーマンを飲み込んだ。
やっと解放されたものの、メンタルをやられ暫し放心状態。なのに並木主任ときたら、さっきまでの鬼のような形相から一変「よしよし」と笑顔で頭を撫でてくる。その瞬間、一気に怒りが込み上げてきた。
「並木主任が私にしたことは、パワハラですよ!」
「ほーっ、パワハラねぇ~そんじゃ、そのピーマンを丹精込めて作った農家の人と、チンジャオロースを一生懸命調理してくれた社食の人の前で同じことが言えるか?」
「えっ……」
「食いもしないモノ注文してんじゃねぇよ。お前がしていることは、ピーマンに対するパワハラだ」
「ピーマンに対する……パワハラ?」
そんなの……初めて聞いた。