アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
縁故枠……
バイオコーポレーションに入社してこんなに良かったと思ったことはない。
返済不要の給付型の奨学金は条件が厳しく、無利子でも著しく生活が困難とか、成績が特に優秀という条件があるので、一般的な奨学金を借りる予定にしていたけど、この制度を利用できれば、借り入れを最小限に抑えることができる。
なんて有り難い制度だと会社に感謝していると……
「でさぁ、並木さんが家庭教師してくれるって言うからお願いすることにした」
「へっ? 家庭教師?」
それはつまり、並木主任がしょっちゅう私の家に来るということだ。
「あ、でも、並木主任は仕事があるし……そこまで頼ったら申し訳ないよ」
やんわり反対したのに、翔馬には伝わらなかったようで「姉貴も彼氏の並木さんがウチに来てくれたら嬉しいだろ?」って得意顔だ。
否定したかったが、さっきの並木主任の話しを思い出し、何も言えなかった。それに、翔馬がこんなにヤル気になってくれたのに、水を差すのはどうかと思ったんだ。
参考書を抱えた翔馬と並木主任が二階に上がると、私はダイニングテーブルに突っ伏し、地団駄を踏む。
はぁ~なんでこうなるかなぁ~
そこへレジ袋を下げた母親が帰って来たので、無理やり椅子に座らせ、なぜ、並木主任に着替えを手伝ってもらったなんて嘘を付いたのかと問い詰めると、意外な答えが返ってきた。
「紬が並木さんのことをどう思っているか、それを確かめようと思ったのよ。昨夜の並木さんの態度を見て、あなた達が付き合っていないってすぐに分かったわ。でも、紬の気持ちはどうなんだろうと思ってね」
「私の気持ち?」
「そう、紬は、並木さんのことが好き……そうでしょ?」