アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】

痛いところを突かれ動揺しながも、並木主任には彼女が居ると説明すると、母親は残念そうに眉を下げ、どんより落ち込む。


「そう、並木さん彼女が居るの……だったら、あんなお願いしたのはマズかったかしら」


あんなお願いとは、翔馬の前では私の彼氏のフリをしてくれというアレ。母親は、その理由を翔馬の為だったと力無い声で言う。


私が居ない時、翔馬はいつも私の心配をしていたそうだ。彼氏を作らないのは、自分達を置いてお嫁に行けないと思っているからじゃないかと……


もしそうなら、自分は大学には行かずに働く。自立して私を安心させるんだと言っていたらしい。


「翔馬がそんなことを?」

「だから、紬に彼氏ができたって凄く喜んでいたのよ。大学に行く気になったのも、並木さんなら紬を幸せにしてくれると思ったから。

昨夜、翔馬が言ってたわ。並木さんみたいな人が兄貴になったら最高だって。その言葉を聞いて翔馬が不憫になっちゃって……」

「それで並木主任に彼氏のフリをしてくれって言ったの?」

「ええ、翔馬の大学受験が終わるまで……せっかく受験する気になったのに、並木さんが紬の彼氏じゃないって分かったら、また大学には行かないって言い出すかもしれないでしょ。あ、並木さんはね、彼氏のフリするのは全然構わないって言ってくれたのよ」


そういうことだったのか……でも、まだまだ子供だと思っていた翔馬が、私のことを心配してくれていたなんて……なんか、泣きそうだ。

< 65 / 307 >

この作品をシェア

pagetop