アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
「あ、翔馬は?」
「問題解きながら寝落ちした。仕方ないからベッドに寝かせてきたよ。きっと今頃、夢の中で必死で問題解いてるぞ」
天井を見上げ微笑む並木主任にお礼を言ってお風呂を勧めるも、なぜかバスルームには行かず、私の横に座って体をすり寄せてくる。
「なっ、なんですか?」
反射的に横に飛び退くが、手首を掴まれソファーの背もたれに押し付けられた。その瞬間、キスされた時のことがフラッシュバックして呼吸が止まる。が、今回、彼が奪ったのは唇ではなく、私が手に持っていた缶ビール。
喉を鳴らしながら半分ほど残っていたビールを一気に飲み干すと、空になった缶を私の手に戻し、フフッと怪しく笑った。
「なぁ、頑張ったご褒美に、一緒に風呂入って背中流してくれよ」
耳元で響く甘い声に頬がカッと熱くなり、慌ててそっぽを向いて立ち上がる。
「家族の居る家で、そういう冗談はやめてください!」
「そんな大声で怒鳴るな。翔馬に俺達が付き合ってないってバレちまうぞ」
なんだか翔馬を人質に取られ脅されてるような気分になり、目を三角にして並木主任を睨むと諦めたのか、気怠そうに立ち上がった。
「仕方ないな。ひとりで入るか……」
ったく、油断も隙もない。
「お風呂の場所、分かりますよね。あ、それと、着替えは翔馬のスエット出しておきましたから、それを着て帰ってください」
まだ熱く火照った頬を隠すように視線を逸らしたまま早口でそう言うと、振り返った並木主任が私の手元を指差し言う。
「またビール飲んじまったから車の運転できないな。今夜も泊まってくよ」
「はぁ?」