アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
すると唯までもが「その通り!」って大きく頷くから、完全に私が悪者になってしまった。なんだか居たたまれなくなり、逃げるように社食を飛び出す。
そんなだから、午後もモヤモヤして仕事に身が入らず、ため息連発だ。
気持ちを切り替えようと熱いコーヒーを口に含むが、酸味が利いたほろ苦い香りが喉の奥に消えるとまたため息が漏れる。
でも、確かに並木主任の言うように、食べもしないピーマンが入ったチンジャオロースをチョイスしたのは良くなかったのかもしれない……
ちょっぴり反省して残りのコーヒーを飲み干すと、隣りのデスクでキーボードを打っていた唯が手を止め話し掛けてきた。
「ランチでの一件が相当、利いてるみたいだね~」
「フン! 唯が友情より男を取る薄情な人間だとは思わなかったよ」
嫌み交じりに横目で睨むが、唯は全く動じない。それどころかとんでもないことを言い放った。
「なんだかさ、悔しいけど、さっきの紬と並木主任、いい感じだった……」
「はぁ? 大っ嫌いなピーマンを無理やり口にねじ込まれたんだよ? どこがいい感じなのよ?」
唯がトンチンカンなことを言うからついムキになって怒鳴ってしまい、課長にギロリと睨まれる。
やっぱり今日は厄日だ……
もう何も言うまいとパソコンに向かったその時、デスクの上の内線が鳴り、受話器の向こうから憎っくき並木主任の声が聞こえてきた。
『すぐに長靴を履いて玄関に来い』
「はい?」
そう返した時には既に内線は切れていて、今日一番のデカいため息を付いて立ち上がる。