アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
意外な理由に驚くも、そこに私が入っていないことに違和感を覚える。
私は最高じゃないんだ……そんな捻くれたことを考えながら再びビールを口にしたのだが、並木主任が「俺の家とは大違いだ」なんて言うから、つい気になって彼の家族のことを聞いてしまった。
「俺の家族か……」
並木主任は浅い笑みを浮かべ、少し間を置き話し出す。
「親父は開業医で、お袋は海外ブランドのセレクトショップを経営している。兄弟は、兄貴がふたり。ふたりとも医者だ」
へぇ~並木主任ってお坊ちゃまなんだ。そんな風には見えないけど……
「両親は俺が小さい頃、あまり家に居なかったからな。兄貴とも年が離れてたし、お前の家族みたいに全員揃って飯を食うなんてこと、一年に数えるくらいしかなかった」
並木主任のお母さんは料理が苦手だったので、家には専属のシェフが居ていつも豪勢な料理が食卓に並んでいたそうだ。
私からすれば羨ましい限りだが、並木主任は私の母親が作るような素朴な料理が食べたかったらしい。
素朴な料理か……確かに、煮物系が多いし、地味な食卓だもんな。
でも、並木主任は、それがいいんだと笑う。
「あ、それと、さっき東京の大学の研究所から連絡があったんだが、お前と山で採取した土から目当ての放線菌が見つかったらしい」
「えっ、本当ですか?」
「本当だ。こんな早く見つかるとは思っていなかったから正直、驚いた。大学の研究所の連中も奇跡だって興奮していたよ」
「あぁ……良かった。これで病気で苦しんでいる人を助けることができるんですよね」