アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】

――翌日、月曜日……


朝食を済ませ自分の部屋に戻った私は、時折メイクをする手を止めて鏡の中の自分を見つめていた。


とうとう最後まであの"決断"の意味を聞けなかったな……


並木主任が彼女から結婚を急かされているのは、ほぼほぼ間違いない。でも彼の口から"結婚"という言葉を聞くのが怖くてスルーしてしまった。


気付けば、並木主任ともっと早く出会えていれば……なんて考えていたりして。私は、自分が思っていたよりもずっと、並木主任のことが好きだったんだ……


でも、ちゃんと分かっている。好きになってはイケナイ人だって。そう、頭では分かっているのに、気持ちが言うことを聞かないんだ。


鏡に映った自分の顔があまりにも寂しそうで直視できない。だから急いでメイクを終わらせ鏡を閉じた。


一階に下りるとキッチンで洗い物をしていた母親がテンション高く私を呼ぶ。


「紬、クローゼットから並木さんのスーツ出してきて~」

「……分かった」


平日の朝は皆時間に追われどこかピリピリしているのに、今日はなんだか雰囲気が違う。


母親の声は弾んでいるし、いつも登校ギリギリまで寝ている翔馬がもう着替えを済ませ時間を持て余している。それはきっと、並木主任が居るから。


彼の存在は私の家族に少なからずいい影響を与えている。残念ながら、私を除いては……だけど。


沈んだ気持ちのまま洋間に行き、クローゼットから並木主任のダークグレーのスーツを取り出す。しかしぼんやりしていたせいで手が滑り床に落としてしまった。

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