アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
慌てて拾い上げるが、その拍子にポケットから何かが飛び出し、ゴトッと鈍い音がする。
「えっ、何?」
足元に転がっていたのは、シルバーのボイスレコーダーだった。
会議などでボイスレコーダーを使っている人は結構居る。だから特に気にもせずスーツのポケットに戻そうとしていたら、背後から並木主任の怒鳴り声が聞こえてきた。
「おい! 何やってる?」
ビクリと体を震わせ振り返ると、並木主任が凄い形相で立っていて私の手からボイスレコーダーを奪い取る。
「……中の音、聞いてないよな?」
「は、はい……」
並木主任の勢いに押され後退りしながら何度も頷くと、今度はスーツを奪い取り、探るような視線を私に向けた。
「本当に聞いてませんから!」
ここで中途半端な態度を見せたら疑いが晴れないと思ったので、私も並木主任の目を真っすぐ見つめキッパリ否定する。
「そうか……ならいい」
本当に納得したのかは微妙だったけど、並木主任はそれ以上何も言わず、洋間を出て行った。
「あぁ……ビックリした」
あんなに怒るってことは、あのボイスレコーダーには、よほど知られたくない内容が録音されているんだろう。でも、だからと言って私を疑うなんて酷い。
私、並木主任に信用されていないのかも……そう思うと無性に悲しくなり、泣きそうになる。でも、溢れ出そうな涙を唇を噛み締め必死で堪えた。
こんなことで泣くなんてバカみたい。何が幸運の女神よ! 結局、並木主任にとって私はその程度の女だったってことだ。