アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
課長に並木主任から呼び出しを受けたと報告し、長い廊下を歩いて玄関に向かうと玄関前のロータリーに社用車が停まっているのが見えた。運転席に乗っているのは並木主任だ。
冷たい北風が吹く中、恐る恐る車の中を覗いてみれば、ジーパンとパーカーというラフな格好をした並木主任が無表情で助手席を指差している。
「乗れ」
「えっ、私も……ですか?」
「お前は俺の助手になったんだ。当然だろ?」
仕事なら仕方ないと渋々助手席に乗り込むが、きっきのピーマン事件の光景がフラッシュバックしてじんわりと冷や汗が滲む。そうこうしていると胸が苦しくなり、動悸が激しくなってきた。
おそらくこれは、私の中の防衛本能が危険を察知し、拒絶反応を起こしているに違いない。ということは、このまま並木主任と一緒に居たら、身も心も病んでしまう可能性だってあるってことだ。
そんなことになったら堪らない。なんの用かは知らないけれど、できるだけ短時間で済ませてちゃっちゃと研究所に戻ろう。
「あの……どこへ行くんですか?」
上ずった声で訊ねると、車を発進させた並木主任が意味深な笑みを浮かべ「俺の秘密の場所」って呟くから顔が引きつる。
「ひ、秘密……?」
「そう、着いてからのお楽しみだ」
お楽しみって……あ、もしかして、行先を言わないのは、お得意の嫌がらせ? "秘密"なんて言ったら私が動揺するとでも思ったんだろうか? ホント、ヤな男だ。