アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
――翌日……
出勤してすぐ、デスクで眠そうに大あくびをしている唯に、並木主任がウチで同居することになったと報告するとそれまで半開きだった目を大きく見開き、私をハグして大興奮。
「紬のお母さんナイスだね~! 若い男女が一緒に暮らせば、絶対なんかあるよ。これで並木主任は紬のモノだね」
「唯ったら、気が早いよ……」
それに、私も並木主任もそんなに若くないし……
苦笑しつつも、ちょっぴり嬉しかったりする。でも、その前になんとかしなくてはいけないのが、並木主任の秘密漏洩疑惑だ。
午前中の仕事が一区切りついたのでトイレに立ち、常務から呼び出されたことを並木主任に言うべきか否か、迷いながら廊下を歩いて行く。
なかなか答えが出ず、トイレの個室で考え込んでいると、後からトイレに入ってきた他の部署の女性社員の話し声が聞こえてきた。
「ねぇ、大嶋常務がどうして突然この研究所に来たか……その理由知ってる?」
「……理由? 社員一人ひとりに声掛けてたし、めったに会うことがない研究所の社員と交流して親睦を深める為じゃないの?」
一瞬、ドキッとしたが、社内秘だという常務の目的を知っているはずはないと軽く聞き流していた。すると……
「違うんだなぁ~大嶋常務がここに来た理由はね、スパイ探し。我が社の内部情報を他社に漏らしている人が居るんだって。それが誰か探る為に来たみたいだよ」
えっ……?
「ヤダ、何それ……で、そのスパイが誰なのか分かったの?」
「それがさぁ~大ショック……成分研究部の並木主任だって」