フェイク☆マリッジ 〜ただいまセレブな街で偽装結婚しています!〜 【Berry’s Cafe Edition】
「なによ?テンシ」
口の中のフィレ肉の塊を咀嚼しながら、わたしは見返した。
今日のパーティでは我が国を代表する老舗ホテルのシェフたちが、わざわざこのベリが丘タウンにあるツインタワーまで出張してつくってくれていた。
(と言っても、ノースエリアの入り口にある櫻坂付近のアッパー層御用達・会員制オーベルジュがこの老舗ホテルの「系列」なので、シェフたちはみなそこから出勤しているのだが……)
中でも、このフィレ肉のステーキはその老舗ホテルの「名物料理」と言ってよい。
なんでも戦前、老舗ホテルに滞在していた某国の声楽家が喉を痛めたとかで、そんな彼にも美味しく食べてもらえるようにと、当時の料理長が「すき焼き」にヒントを得て特別につくって差し上げたのが始まりだという。
なので、料理名には由来となった声楽家の名が冠されている。
——あぁ、美味しいっ。
これを食べられるだけでも、ここに来た甲斐があったっていうものよ。
「おまえ、呑気に肉なんて食ってる場合か。
……あれ、見ろよ」
テンシが顎で、くいっと方向を示す。
わたしは糸で引かれるようにそちらを見る。
すると、そこには——