フルール・マリエ
「人並みには結婚願望あったら、今の彼氏と結婚したいですか?」
結婚のことを全く考えたことがないわけでもなかった。
20代も後半に差し掛かった今、付き合うイコール結婚という道のりを自然と想像してしまう。
「できるならば、したいかなぁ」
「もっとこう、運命的な感じはないんですか?」
小学校のクラスメイトと同じ職場で再会は、割と運命的なのではないだろうか。
でも、千紘と付き合う事自体が奇跡的だったのに、結婚となるとまた、現実味が無くなる。
千紘と結婚して、どんな日常生活になるんだ?
日常から切り離されたような異次元の美貌を持つ千紘と?
「好きの延長が結婚なわけじゃないじゃないですかー?」
「深いね」
「付き合うと結婚は違いますよ。付き合うならときめきを求めますけど、結婚だったら安定を求めますもん。1番の人より2番の人と結婚した方が幸せ、とか言いません?」
牧さんの方が遥かにシビアな結婚観を持っている気がする。
感心してしまって、どちらが先輩なのかわからない。
「安定っていう面ではいいんですよねー、落ち着くし。別れた理由もそれなんですけど。物足りなくなっちゃって」
可愛らしく小悪魔的に照れ笑いを浮かべ、時計を見た牧さんは戻りますねー、と机の上を片付けて出て行った。
千紘といると、ときめきなら十分過ぎるくらいだけど、落ち着かないことは多々ある。
それが不幸だとは思わないが、このままときめき続けておかしくならないんだろうか、という一抹の不安を考えるくらいだ。
左手につけた千紘から貰った時計を眺めると、室内灯に反射して文字盤の石がキラキラと煌めいていた。
いつでも輝く千紘を、私は常に眩しく感じている。