フルール・マリエ
「綾・・・」
思わず呟いてしまったのだろうが、その時は完全に支配人としての自分を忘れていたような反応だった。
「ブライダル系の仕事をしてるって噂で聞いてたけど、千紘君ってここで働いてたの?」
「ああ」
「びっくりした。こんな偶然、あるんだね」
「そうだね。結婚するんだ?おめでとう」
「ありがとう」
「じゃあ、仕事中だから。朝見さん、よろしく」
仕事中だから必要最低限の言葉しか交わしていなかったけど、その言葉の端々には親密さを感じてしまった。
「千紘君って上司なんですか?」
新婦の着替えを手伝っていると、鏡越しに新婦が首を傾げる。
真田さんの私への言葉のかけ方で真田さんとの上下関係を把握したのだろう。
「ええ。この店の支配人です」
「支配人!?うわー、すごいなぁ。あ、彼、大学の知り合いだったんですよ。その頃から頭脳明晰だったけど、同じ歳で支配人って、さすがだなぁ」
「そうなんですね。それは、すごい偶然でしたね」
「実は、彼と付き合ってたことあるんです」
何となく、そんな気はしていた。
下の名前で呼び合う感じと、真田さんの反応が容易に2人の関係を想像させた。