フルール・マリエ


事務所に戻って来ると、そのすぐ後に冴羽さんが入って来て、コーヒー飲む?と聞かれたので自分がやると言って冴羽さんのコーヒーもカップに注いだ。

「ねぇ、和光様って真田さんの知り合いだったの?」

冴羽さんは私の隣で接客していたから、さっきの和光様と真田さんのやり取りに気づいたのだろう。

「大学の知り合いだったそうですよ」

「美男美女ねー。どういう大学生活なのかしら。あんな2人が並んでたら眩しくて見てらんなそう」

真田さんのプライベートな部分は謎が多いので、従業員同士の中でも、たまに話題に上がることだった。

謎であることは、私にとってはありがたいけれど。

「私の勘では、付き合ってたわね」

その通りです。

見比べた時に2人はとてもお似合いだったし、同じキャンパスにいたら惹かれ合わないはずがないとも思った。

温かいコーヒーに息を吹きかけ、そっと口に含む。

「結婚する時になって元彼と会ったら、どういう気持ちなのかしら」

「懐かしいな、って思うんじゃないですか?」

「清いなー。真田さんだよ?私なら、早まったかもーって思うかも」

「旦那さんに怒られますよ」

「今更はそんな気持ち起きないって。旦那の良さをいっぱい知っちゃってるからね」

同窓会で元彼と会うことはあったけれど、思い出になってはいるものの、今からどうこうなろうとは思わなかった。

それは、未練など無く別れることができたからだろうか。

少しでも好きな気持ちが残ったまま、離れてしまったら、すぐにその気持ちは再燃するものなんだろうか。

コーヒーを啜り、書類整理を始めたところで真田さんが事務所に入って来たのでびくり、とする。

真田さんの噂話をしていたせいか、目の前を通過する真田さんをじっと見ていると、真田さんがこちらに気づいてしまい、咄嗟に目をそらした。




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