フルール・マリエ


千紘には2週間後の誕生日に予定を空けておいてもらい、千紘の家でお祝いさせてほしいと伝えると目を丸めていた。

文集で誕生日を知ったことは伏せて、曖昧に答えたが楽しみにしてると言ってくれた。


当日は、というかほとんど千紘は1番最後に店を出るので、鍵を借りて私は買い物を済ませて千紘の家に向かった。

余計な物のない綺麗なキッチンに食材を置いて、料理の準備を始める。

普段あまり料理はしないから、手の込んだことはできないが、誕生日に少し華を持たせられるくらいの料理を振る舞おうと思った。

こんなことをしていると、何だか夫を待つ妻のような気分になってきて、にやけそうになる。


ハンバーグを煮込んでいると、千紘が帰宅して来たようで、玄関の方から音がした。

「おかえりー」

料理を作らせてもらう、と言っていたはずだが、千紘はその場で立ち尽くしていた。

「どうか、した?」

千紘はキッチンに入って来たかと思うと、私を後ろから抱き締める。

「いるのわかってたけど、実際見るとやばい」

私だって、この状況は心臓がやばい。

背中に伝わってくるのは千紘の体温と鼓動の音。

「毎日だったらいいのに」

吐息と共に漏れ出た小さな声に息が乱れそうになる。

「そろそろ火、止めないとだから」

「うん、ごめん。ただいま」

私から離れた千紘は、着替えてくると行って別の部屋に入って行った。

千紘が去ったことで少し落ち着きを取り戻したけれど、胸に当てて感じる鼓動はまだ乱れていた。



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