フルール・マリエ
児玉千紘は小学生の時に良く遊んでいた男の子だった。
ただ、その頃から綺麗な顔立ちで名前が千紘だったから、男の子達に女子扱いされてイジメられていた。
メソメソと泣いてばかりいて言い返さないから、私が代わりに言い返して男の子達を蹴散らしていたことを思い出すと、あまり思い出したくなかった過去だと後悔した。
「こんな、体格が大きくなってて支配人?全く面影ないし、自然に気づけるわけがない」
「面影ないかな。俺の美形は不変だと思っているけど」
そういう性格なの?
その美貌で無自覚だったら、それはそれで信じられないけど、当然のごとく人前で自分を美形とのたまえる人?
真田さんは自分の顎に指を当て、首を傾げているので冗談でも何でもないらしい。
「いつまでも気づかないから口走ってしまったが、店の中では私たちの過去の関係は他言しないようにしよう。仕事がやりにくくなる」
それならば、ずっと口走ってほしくなかったと思ってしまう。
最早私の頭の中では泣いている児玉千紘しか出てこない。
目の前の人と同一人物だということを認識しようとすると頭が拒否をする。
「お疲れ様です」
冴羽さんが入って来たので、その場で話は打ち切りになり、私はふわふわとした覚束ない足取りで自分の席に座ると、パソコンを起動させる。
パソコンが立ち上がるのを待つ間、真田さんに視線を向けると、何事もなかったかのように硬い表情でパソコンに向かっている。
信じられない。
私より女子みたいで小柄な千紘が、真田さんだなんて。
集中するために首を振り、パソコン画面に向き直った私は目の前の仕事に没頭することで、一度真田さんのことは頭の外から追いやることにした。