フルール・マリエ
「じゃあ、千紘君はこっちに戻って来てるってこと?」
「さぁ?どこに住んでるかはわからないけど、そうなんじゃない?」
残っていたビールを飲み干して、次の一本を求めて冷蔵庫に手を掛けると母に止められた。
「ちょっと、もうすぐご飯ができるだから、先に食べちゃってよ」
「はいはーい」
「もう。ちょっとは料理覚えたら?そしたら千紘君をゲットできるかもしれないじゃない」
「ゲットする気ないでーす」
「えぇ、お母さん、千紘君が息子になったら嬉しいのに。絶対イケメンよね?写真とか無いの?」
「無いよ。けど期待通りイケメンではあるよ。腹立つ程に」
「そうでしょ、そうでしょ。あんなに可愛かったものねぇ」
母はこう見えても私より男性アイドルの流行をいち早く把握し、顔と名前もしっかり覚えるイケメン好きだ。
父は至って平凡な顔つきなので、好きと結婚は必ずしもイコールではないのだと納得している。
「店に差し入れとかしちゃおうかなぁ」
「絶対やめて。本当にやめて。フリじゃないからやめて」
「行かないから、ご飯盛ってちょうだい」
「喜んでー」
はっきりとした返事で素早く行動を起こし、そのまま母の思惑にのせられて2本目のビールはお預けで、夕飯の支度を手伝うことになった。