フルール・マリエ
毎朝行う開店前の笑顔と礼の練習と従業員同士の身だしなみチェック。
真田さんは1番前で威厳たっぷりにその様子を見つめている。
あんな威厳がどうなったら、あの泣き虫の千紘に備わるのだろうか。
これまでの人生で相当な苦難を乗り越えてきたのでなければ、あの千紘が今の真田さんのようになることは不可能なんじゃないかと思う。
「朝見さん。頭の位置が少し高いですよ」
「すみません」
全体をしっかり見ている真田さんは、少しのミスも見逃さない。
真田さんを見るとどうしても千紘の面影を探してしまう。
まだ私の中で真田さんと千紘を同一人物と繋げきれていないからなのだろうけど、仕事の時には仕事に集中しなくては。
腰を折る角度を意識しながら、もう一度礼をして気持ちを引き締める。
本日お見えになったのは三原様。
三原様はウェディングドレスが既に決まっており、今日は迷われているカラードレス2着を1着に絞り込み、披露宴で着用する衣装を決める段階にある。
式場とも打ち合わせが始まっていて、会場を作る上でも本日ドレスを決めなくてはならなかった。
前回の1番は予約をとっていたのでもちろん用意しているが、もう1着も用意ができたので、どちらも試着しながら再確認ができる準備をしておいた。
「前回はこちらの方がお気に召したとおっしゃってましたが、今の気持ちはどうですか?」
鮮やかなビタミンカラーのボリュームたっぷりなカラードレスを示す。
新婦は南国生まれを感じさせるはっきりした顔立ちで、このくっきりとしたイエローのドレスは良く似合っていた。