フルール・マリエ
向日葵がプリントされたドレスを身につけた三原様は「素敵」と息を落とすように呟き、鏡に映した自らの姿を見つめていた。
「とてもお似合いです」
「ありがとうございます。朝見さん」
微笑んだ三原様の瞳は溢れそうな涙で潤んでいた。
その涙が嬉しさなのか悲しさなのかは私には測れなかった。
どうかこのドレスが三原様の決意を考え直してもらえる奇跡の一着とならないだろうか、と祈る思いだった。
「朝見さん。写真を撮ってもらってもいいですか?」
「もちろんです」
渡されたスマホでドレス姿の三原様を写真に収める。
装飾は付いていないが、存在感のある大輪が華やかなドレスで、緑が多い式場とも良く合うだろう。
ブーケや髪飾りにも向日葵をあしらうのもいいかもしれない。
その時には、ドレスに大きなプリントがされているから、量は少なめで小さめの向日葵の方がバランスが良いかもしれない。
想像を膨らませながら撮影を終えると、三原様は私に向き直る。
「ありがとうございました。朝見さんにはとてもお世話になりました。このドレスも素敵です。最近喧嘩ばかりだったから、1番嬉しかった思い出も忘れてしまっていました。彼のこと、今でも好きです」
三原様の瞳から堪えられなくなった涙が一筋溢れた。
「私が弱かったんです。彼と一緒ならどこだっていいんだ、って思えなかった私の彼への思いはその程度だったんです」
三原様は涙を手の甲で拭おうとしたので、ハンカチを差し出した。
「こんな素敵なドレスに出会えて、幸せです」
三原様の決意は変わらなかった。
私にはどうすることもできず、鼻の奥がツンとして瞳が熱くなったが、三原様のドレスを脱ぐ手伝いを無心になって行うことでなんとか堪えた。