フルール・マリエ
会場の中は既に半分ほどの観客がパイプ椅子に座って始まるのを待っていた。
中央にランウェイが設置されていて、それを囲むようにずらりと並んだパイプ椅子。
その一角の席に並んで座ると、真田さんとの距離の近さに緊張したが、静かに深呼吸をして気持ちを整えた。
私がパンフレットを眺めていると、真田さんに声をかけた女性が挨拶をしにやって来たので、真田さんは立ち上がり、少し談笑をしていた。
話の内容から別店舗の同業者のようで、化粧もアクセサリーもネイルもさり気なくお洒落でどれもよく似合っている美人だった。
この2人が立っているだけで絵になるな、と思っていると、その女性は私にも頭を下げ、自分の席に戻って行った。
「お知り合いですか?」
「本社にいた時に少し」
意味深な語尾は、話すのが煩わしいのか、わざとなのか判断つかないが、それ以上は特に訊くことをやめた。
「妬いてくれますか?」
敬語だったので、何を言われたのか一瞬理解に遅れをとった。
その間が肯定と捉えられたのか、口元に微笑を浮かべた美形が私を見下ろす。
「違います」
「それは残念ですね」
なるべく素っ気なく聞こえるように答えたが、真田さんはちっとも残念そうな顔をしていなかった。