フルール・マリエ


真田さんは車で来ているということで、送って行くか、と言われたが私は断り、来た時と同じように電車で帰るために駅までの道を歩くので、その途中で別れた。

駅までの道を歩いているうちに、小雨が降ってくるようになり、足早に歩き始めていたのだが、すぐに本降りになってしまったので屋根の下にひとまず逃げ込んだ。

ブーケをかばうように持っていたが、少し濡れてしまった。

でも、白い花びらにのった雫は綺麗で、これも悪くないな、と思った。

「やっぱり送るよ」

目の前に見覚えのある黒の車が停車し、開けられた窓から真田さんが呼んでいる。

周りに人がいないから既に砕けた言葉に変わっている。

「いえ、駅までもう少しなんで」

「頑なに拒絶しすぎるのは、逆に不自然だと思うけど。それって、俺を上司と思いきれていないんじゃない?」

千紘の中では完全に使い分けているのだろうけど、同じ顔で状況に応じて口調も態度も変わることに混乱しないわけがない。

雨は止む気配が無く、千紘の言葉に過剰に反応しているとも思われなくて、「お言葉に甘えます」と敬語のままで頭を下げた。



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