フルール・マリエ
「抵抗したら?じゃないと、受け入れたと判断する」
手を挙げようとすると、千紘に簡単に掴まれて制される。
体を離そうとすると、引き戻される。
「もう、遅いよ」
「何っ・・・・」
口を塞がれ、千紘の瞑った目と長い睫毛が視界の大半を占めている。
唇が触れているだけなのに、体から力が抜ける。
完全に千紘に流されているのに、どうしたらいいかわからなくなっている。
「ねぇ、いいの?そんなに大人しいと、俺、もっとその気になるんだけど」
唇を離し、なおも近距離で千紘の綺麗な顔が私の事を見つめている。
頭の中は混乱しすぎて、パニックを起こしていて、ただただ千紘を見上げるばかりだった。
「だ、だめなの」
自分でも驚くほど、震えた、か細い声だった。
「何がだめ?」
「私が私じゃなくなる。今だって、考えたりできない。何でか、涙が出てきそうになってる。自分で自分がわからなくなる」
「それは、俺の事で、ってことでいいの?」
こくりと子供のように頷くと、千紘は私の事を再び抱きしめる。
「いろいろ言ったのに結局、私はとっくに千紘の事が好きになってた」
正気が保てなくなるくらいの自分の気持ちに気づきたくなくて千紘を遠ざけようと試みたし、離れようともしたけれど、結局は全て中途半端だった。
「もうちょっと一緒にいない?このまま帰せなくなった」
躊躇いがちに頷くと、一瞬触れるだけのキスを交わして車を再び走らせた。