それがあの日の夢だった
「お父さん。お母さん?」

二人が眠っているはずの和室を覗くと、そこではお父さんが一人で立っていた。

「お父さん?」と私が呼び掛けても返事がない。

様子がおかしい。

「お父さんっ!」

たまらず私はお父さんの肩を叩き、大きな声で叫んだ。

こちらを振り返ったお父さんの顔をみて、私は言葉を失った。

「お父さん?何してんの…」

獲物を見つけたかのように私をみて笑うお父さん。

その口元にはべっとりと赤黒い血と肉片がこびりついていた。

その顔には、あの優しかったお父さんの面影はなかった。

「いやあぁぁぁ!!」

気づけば私は家を飛び出し全速力で村を駆け回っていた。

破壊された住居。噛み千切られた人の肉体。
飛散する血。村中に漂う血生臭さ。



「おばちゃん!!」
私は村の中心の広場辺りで倒れているおばちゃんを見つけた。

おばちゃんは喉を噛まれて既に絶命していた。

おばちゃんはきっと何者かに襲われてから、必死にこの広場まで逃げてきたんだ。

恐怖に震え、息を切らしながら。それでも必死に…。

私はおばちゃんの手を握る。
その手が私の手を握り返してくることはなかった。

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