君の手が道しるべ
と思っていると、突然、大倉主査が私の方を振り向いた。

 そして、一瞬、イタズラがバレた少年みたいな顔をして、ぺろりと舌を出してみせた。

「……え?」
 
 呆気にとられる私。

 でも、次の瞬間にはもう大倉主査は私に背を向け、さっきまでと全く変わりない落ち着いた態度で挨拶をしていた。
 いったい何が起きたのか事態をよく把握できずにいると、あとから営業室に入ってきたらしい栞ちゃんが、

「あの……調査役、キャビネットの鍵とってもらえます?」

 と控えめに声をかけてくる。

「あ、ごめん。ちょっとぼーっとしちゃった」

 私はとっさに笑ってごまかし、いつもどおりの朝の準備に取りかかったのだった。
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