君の手が道しるべ
金曜日の歓迎会。

 私は早くも、プライベートを優先しなかったことを後悔していた。

 歓迎会につきものの、支店長の挨拶と乾杯が終わった瞬間、

「お疲れ様ですうぅぅー!」

 と甘ったるさ全開な梨花が目の前の席にやってきたのだ。

 といっても梨花のターゲットは当然ながら私ではない。さっきの「お疲れ様ですうぅぅー!」も、私に向けられた言葉ではない。
 銀行員にしておくには惜しいルックスの持ち主、大倉主査のとなりの席が狙いだ。

 大倉主査のとなりにもともと座っていた渉外課の佐藤次長が、梨花の勢いに押されて席を立ち、支店長の近くに移動する。

「あー、すみません佐藤次長! 席、座っちゃいますねー!」

 これ以上ないくらいの満面の笑顔で言って、梨花はするりと空いたスペースに入り込んだ。ここまでの動きに無駄は一切ない。完全にハンターの域だ。狙った男は絶対逃さない、天才ハンター、藤柳梨花。

 正直なところ、梨花がハンターであろうとなんであろうと興味はない。どんな男を狙おうと私の知ったこっちゃない。

 だけど、だ。

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