君の手が道しるべ
「すいません。驚かすつもりじゃなかったんですけど」

 小さく頭を下げる大倉主査に、私はあわてて「ううん。私がぼうっとしてたから」と首を振る。周りを素早く見たが、会社の人間は見当たらない。

「二次会は? 梨花に誘われたでしょ」

「ええ、まあ、はい」

 大倉主査は苦笑いした。

「誘われたんですけど、逃げてきました」

「……逃げた?」

 びっくりして訊き返すと、大倉主査は右手で首の後ろを軽くなでながら、

「はい。僕、ああいうのは苦手なんですよ」

 と言う。ああいうの、が何を指すのかピンとこなかった私は首をかしげた。

「苦手って、飲み会が?」

「いえ」

 電車が反対側のホームに入ってきた。その音にかき消されそうになるくらいの声で、大倉主査は言った。

「藤柳さんが、です」

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