君の手が道しるべ
昼休みから戻ってきた梨花が、私が貸出調書を熟読しているのを見て怪訝そうに声をかけてきた。

「どうしたんですか? 昼、上がらないんですか?」

 銀行は朝の9時から午後3時までシャッターは上がりっぱなし。昼休みはないから、みんな交代で昼休みを取る。

 私はいつも梨花の次、12時からの昼休みなんだけど、私がいっこうに席を立とうとしないので気になったらしい。

「あ、うん。もう少ししたら上がるから。気にしないで」

「……融資課の同席ですか?」

 貸出調書をのぞき込んで、梨花が鋭いチェックを入れてくる。なんとなく嫌な予感が胸をかすめた。

「うん。急に頼まれちゃって。あと1時間で用意しなくちゃならないから」

「ふうん……池田産業ですか。融資担当って誰でしたっけ?」

 嫌な予感がざわり、と音を立てる。

「大倉主査が担当みたいだけど」

 精いっぱいの努力で、何気ないふうに答える。梨花が大倉主査を狙っていることは、今や女子行員の間では周知の事実だ。

 そして、梨花を差し置いて大倉主査に接近すれば、どんなことになるのかも、みんな口には出さないけれどわかっている。

 私だって無駄に波風立てたくない。梨花を敵に回すような面倒なことにはしたくないのだ。

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