君の手が道しるべ
池田産業の社長は気のいい人で、私の運用提案を穏やかに聞いてくれた。

 同席してはいけない立場の大倉主査は途中で一度退席し、融資関係の書類を整えてきた以外は黙って私のとなりに座って、まるで自分が運用相談をしているかのように静かに話を聞いていた。
 
 運用提案が終わると、社長は人のよさそうな細い目をさらに細めて、

「お話はわかりました。この場で即答は難しいから、また後日お返事させてもらいますよ。いいですか? 大倉さん、永瀬さん」

「はい、もちろんです」

 大倉主査が答え、私も一緒にうなずく。運用を提案してその場で即決、なんてことはまずないから、私としても最初から期待はしていない。むしろ、この場で断られなかっただけありがたいくらいだ。

 大倉主査と社長はそれからあたりさわりない世間話を少しして、その日の面談は終了になった。

 社長が店を出るのを大倉主査と一緒に見送る。社長が乗った車が駐車場を出ていくのを確認してから、私は大きく息を吐いた。

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