君の手が道しるべ
「ところで、永瀬調査役って、実は提案上手いんですね。感心しました」

「……そりゃあ、どうも」

 なんと答えたらいいのかわからず、私は小声でそう言う。実は、ってどういう意味なんだ。梨花といい、大倉主査といい、なんなんだ、この上から目線は。

「あ。怒りました? もしかして」

 大倉主査はにやにや笑いながら私の顔をのぞき込む。

「怒ってないよ」

「じゃあムッとしましたね」

 完全に面白がっているようだ。

「そうやって人のことからかって、楽しんでるんでしょ」

「わかります?」

 本当に楽しそうな様子が妙に腹立たしい。

「悪趣味……」

「よく言われます」

「直した方がいいと思うけど」

「考えておきます」

 運用課まで大倉主査は私と並んで戻ってくると、さっきまでのにやにや笑いをぴったりと引っ込めて、

「じゃ、永瀬調査役、次回面談の日程が決まったらお知らせしますのでよろしくお願いします」

 とクールな表情で言った。

「……次回? あればいいけどね」

 私は自嘲めいた笑みを浮かべる。次回面談なんて期待していない。忙しいはずの池田産業の社長が、わざわざ時間を取って私の提案を聞いてくれた、それだけでもう充分感謝している。
 
 その上、契約まで望むなんて欲張りだ。

 大倉主査はそんな私をじっと見ていたが、ふっと微笑んで、何も言わずに2階の融資課へ戻っていった。

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