君の手が道しるべ
藤柳梨花は、私の後輩であり、部下であり…ライバルでもある。
 見た目は、まあ、可愛いほうだ。というか、可愛い。同性でもそう思う。ふんわりしたボブヘアと、黒目がちの大きな瞳、細くて長い手足。周りはみんなダークカラーの地味なスーツを着ている中で、梨花だけはベージュやら薄ピンクやらのスーツを着ている。
 本人が「地毛なんですよぉ」と言い張る明るいブラウンの髪は美容院で月2ペースで染めていることも、黒目がちの瞳はカラコンでできていることも、私にはお見通しなのだけど、どうやら、世の男たちは見破ることができないらしい。見た目と甘ったるい声に骨抜きにされたオトコ連中を、私は何人も見てきた。お客様でも、会社の上司でも、後輩でも。

 田中のおじさま、というのは、そうやって骨抜きにされている建設会社社長のことだ。日頃から、お客様のことを「おじさま」呼びしないようにと言っているけれど、梨花はまったく意に介する様子がない。
 それに、梨花から見れば私は上司なのだから、さん付けではなく「永瀬調査役」と呼ぶのが妥当なはずだが、それもしない。

 そして、「永瀬さんが提案したって」という一言にも、私に対しての悪意というか、底意地の悪さがこもっている。「提案スキルのないあんたでも、田中社長はいい人だから、契約してくれるでしょ」という、私を馬鹿にした言い回し。
 突っ込みどころ満載の梨花の暴言だったが、いちいちそこに突っかかる暇も気力もない私は、曖昧に微笑んだだけだった。
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